研究概要 |
脳虚血後に内在性幹細胞から神経再生が生じることは、近年の研究で明らかにされつつある。本研究では、ラット全脳虚血後に生じる背外側線条体の選択的神経細胞死のモデルを用いて、神経再生の検討を行った。ラットの9分間の4血管閉塞モデルを用い、2日後の細胞死を定量したところ、同部では高度な神経細胞死が生じ残存神経細胞数は2%まで減少した。42日まで観察したところ、若干の細胞数の回復が見られたが(6%程度)、有意では無かった。そこで48時間後から7日間EGF,FGF-2を脳室内に持続投与したところでは、神経細胞数は15%まで有意に回復していた。BrdUを用いて分裂細胞を標識すると前脳室下帯にて神経先駆細胞のマーカーを発現した細胞がBrdUにて染色され、これらの細胞は42日後には外側線条体にて成熟神経細胞のマーカーを発現していた。同部での、subtypeを検討したところ、投射神経細胞であるDARPP-32陽性細胞だけでなく、その他の介在抑制性神経細胞にも分化していた。電気生理学的に検討すると20週以前では、胎生期から幼弱期の神経細胞に類似した特性を示し。20週以降になって初めて脱分極等の特性は成熟型を示した。これらのことは、損傷部位での電気的成熟には正常発達期に要する以上の基幹を要する可能性が示唆された。また、行動学的には、線条体依存性の前肢運動能力が、成長因子投与によって改善した。これらの所見は、成長因子投与によって内在性の神経再生機構の賦活化を行うことで、機能改善にもつながる神経再生を成体脳においても誘導できる可能性を示唆している。
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