成体脳内に幹細胞が存在することが報告されてから、内因性機構を用いた中枢神経系の再生療法が注目されている。全脳虚血モデルを作成後、選択的神経細胞死を誘導してその再生過程を追跡した。特に、線条体の選択的神経細胞死について検討したところ、本モデルでは2%まで神経細胞が死滅し、成長因子の急性期投与にて15%まで、神経細胞数の回復が得られた。Subtypeにおいては、領域特異的なマーカーを発現しており、脳内で自然に分化誘導が生じていることが判明し、電気生理学的にも改善が見られた。また、運動機能も有意に改善し、軸索も新たな神経細胞から標的細胞に進展していた。これらの報告は、昨年度にほぼ得られていた。 本年度は、これらの現象の中で特に再生神経細胞が、Nogoなどの軸索阻害因子が発現している成体脳内で、標的細胞に如何にして新規の軸索を延長し得るのかの問題に着目した。成体中枢神経系では、神経軸索の無秩序な進展を防いで、けいれんを予防しつつ効率性を高めるために、内因性阻害因子が多く発現している。その一つがsemaphorin3Aであり、その機構伝達についてCRMPを中心とした基礎研究をin vitroのモデルを用いつつ検討した。また、Nogoなどの阻害因子に対する内因性拮抗物質Lotusが本学の基礎研究室で発見同定された。本分子は、成体脳内でも発現していることが分かっており、脳虚血後の再生神経細胞が本分子を発現して、抑制的成体脳内環境下でも軸索を進展しているとの仮説を立てた。 これらの動向から、本年度は再生神経細胞の軸索進展機構解明に主眼を置き、新たな研究の展開を開始した。特に、組み換えLotusの成体脳内投与による新たな軸索進展の促進が得られれば、神経再生の効率を飛躍的に高められる可能性がある。
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