研究概要 |
本年度は(1)活性酸素(Reactive Oxygen Species,ROS)が病態モデルにおいて組織傷害に関与していることの実証、(2)ROSのうちでも一重項酸素が組織傷害に大きく関与している可能性の示唆ならびに(3)その一重項酸素を効果的に消去する薬剤の開発を行った。 (1)ROSが病態モールにおいて組織傷害にしていることの実証 白血病の治療法の一つに白血病細胞をレチノイン酸で刺激してを促し、成熟白血球化した細胞に特有の自死作用を利用して白血病細胞を消滅ざせるという治療法がある。しかしこの治療法は呼吸器障害などの重篤な副作用を伴うことがる。それは白血球細胞が成熟分化に伴いROS産生能を獲得し、その細胞が産生するROSが肺毛細血管などの組織を傷害するのが原因ではないかと考えた。そこでこの病態モデルを用いて、実験を行った。結果は予想通り、ヒト白血病細胞であるNB4細胞をレチノイン酸で刺激した場合、この細胞はROS産生能を獲得し、ホルボルミリステーテアセテート(PMA)刺激によりスーパーオキシド、一重項酸素、次亜塩素酸、ハイドロキシラジカルといった成熟白血球が産生するのと同じ種類のROSを産生した。またこのROS産生能を獲得したNB4細胞を血管内皮細胞と共存させ、おなじくPMA刺激を行うと内皮細胞の透過性を高まった。これはレチノイン酸を用いた白血病治療において、副作用として呼吸器障害が生じるという現象に通じる知見である。以上より、ROSが病態モデルにおいて組織傷害に関与していることがでた。これは臨床において治療につながる意義ある成果である。 (2)ROSのうちでも一重項酸素が組織傷害に大きく関与している可能性の示唆 ラット神経様細胞であるB50細胞を、光増感剤であるローズベンガル緑色光で照射することで人為的に発生させた一重項酸素に暴露したところ、細胞死が誘導された。この細胞死が脳梗塞治療薬エダラボンで緩和されたことから、生体内でも一重項酸素が脳梗塞の組織傷害に関与している可能性が示唆された。これは基礎と臨床の知見を結びつけるという意味で意義ある成果である。 (3)その一重項酸素を効果的に消去する薬剤の開発 プデリン化合物の有する一重項酸素消去能に注目し、その置換基を変化させることによりさらに消去能を高める工夫を行った。結果、細胞毒性がなく消去能の高い化合物が合成できた。これは「創薬」という意味で意義がある。
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