平成21年度は、ラット神経様細胞であるB50細胞を用いて、細胞外で発生させた一重項酸素が急性の細胞傷害を惹起すること、ならび一重項酸素消去剤エダラボンがその急性の細胞傷害を緩和することを示した。平成22年度は、マウス神経様細胞であるMG6を用いて、細胞内で発生させた一重項酸素が亜急性の細胞傷害を惹起することを示した。これらの結果を踏まえて、本年は神経様細胞ではなく神経細胞そのものを用いて、また一重項酸素を細胞内外から人為的に負荷するのではなく、細胞内外で一重項酸素が発生していると予想される無酸素・再酸素化法、グルコース枯渇法、グルタミン酸投与法、パラコート投与法のうち、まず最初にグルタミン酸投与法を試みた。そのため、ラット神経細胞にグルタミン酸を負荷することにより、細胞内に一重項酸素が発生し、それにより細胞死が惹起されることを示そうとした。しかし細胞死の形態が単純なネクローシスやアポトーシスではなく、変性細胞死であったため細胞死の評価が困難で、実験計画に大きく齟齬を来した。これに関しては、細胞死そのものではなく、細胞の活性低下を評価する方法に計画を変更し、実験を継続する予定である。一方で、当初の計画であった神経膠細胞ミクログリアと一重項酸素の関係を調べるに先立って、同じ貪食細胞の一種である好中球の細胞死において近年注目を集めているNeutrophil Extracellular Traps (NETs)と一重項酸素の関係を調べた。NETsというのは好中球が自らのDNAを網の目のように細胞外に放出し、これにより細菌を捉え死滅させるという一種の生体防御機構である。好中球自身も細胞死を来すため、その細胞死の形態はNETosisと呼ばれている。このNETs形成には活性酸素が関与していることは広く知られていたが、好中球が産生する種々の活性酸素種のうち、どの種の活性酸素が重要かは不明であった。これを我々は、これまで培ってきた活性酸素研究の手法を用いて、一重項酸素がNETs形成に必須であることを示した。しかし、同じ食食細胞の一種であるミクログリアにおいても、無酸素・再酸素化などで細胞内に一重項酸素が発生した場合、NETs様現象が生じ、それにより周りの神経細胞を傷害する可能性があるか否かついては、今後の検討課題となった。
|