痛み入力と情動応答を媒介する扁桃体中心核内の神経回路が慢性痛において示す可塑的変化とその成立機構の解明を目的とした。麻酔下にWistarラット左腰髄第5脊髄神経を結紮した後、脳スライスを作成し、腕傍核由来上行線維刺激によって誘発されるシナプス後電流(EPSC)を扁桃体中心核外側外包核CeCニューロンから記録した。(1)慢性神経障害性疼痛患側対側CeCで特異的に形成される興奮性シナプス伝達の増強は、単線維終末から1活動電位によって同期的に放出される小胞数の著明な増大に起因する事実を明らかにした。この時、シナプス後膜のNMDA/AMPA比が増加した。一方、シナプス形態の電子顕微鏡解析の結果、慢性神経障害性疼痛患側対側CeCにおけるシナプス面積の増大、シナプス形状の複雑化、ならびにシナプス後膜AMPA受容体密度の軽度の増加が生じる事実を突き止めた(重本隆一およびDong Yu-Linとの共同研究)。(2)神経障害性疼痛モデル作成6、24、36および48時間後に脳スライスを作成し、シナプス伝達を評価したところ、術後6時間後にすでにCeCシナプス伝達増強が両側性に生じ、その後2日目以降に片側性のシナプス増強が成立する事実を明らかにした。(3)神経障害を治療すると異痛症閾値は回復するものの、シナプス伝達は増強したままである事実を見出した。(4)シナプス増強入力を示すCeCニューロンは、spinyで、その多くがGABA作動性であり、情動生成のgatingに関与している可能性が示された。(5)C線維の選択的脱落モデルを用い、C線維侵害受容器入力は異痛症成立には必要ないが、CeCシナプス増強の成立には促進的に働く可能性を見出した。これらのシナプス前・後の変化を伴う形態・機能変化が、慢性痛における痛み入力に対する情動応答の亢進の基盤機構である可能性を世界で初めて証明した。
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