痛み入力と情動応答を媒介する扁桃体中心核内の神経回路が慢性痛において示す可塑的変化とその成立機構の解明を目的とした。麻酔下にWistarラット左腰髄第5脊髄神経を結紮した後、脳スライスを作成し、腕傍核由来上行線維刺激によって誘発されるシナプス後電流(EPSC)を扁桃体中心核外側外包核CeCニューロンから記録した。本年度は、以下の新知見を得た:(1)慢性神経障害性疼痛によってCeCで特異的に形成される興奮性シナプス伝達の増強は、経路依存的に生じる。直接的な侵害受容性入力が、シナプス増強の直接的因子である事実が確認された。(2)新生仔capsaicin処置によってTRPV1チャネル発現末梢神経の選択的不活性化を生じさせた動物において脊髄神経障害によるCeCシナプス増強を評価した。新生仔capsaicin処置動物で作成された神経障害性疼痛モデルでは、非処置動物(溶媒投与)とほぼ同様の異痛症症状が発現したが、新生仔capsaicin処置動物のCeCでは、非処置動物と異なり、シナプス伝達増強が生じなかった。C線維の関与する疼痛症状の亢進がほとんど生じない神経障害性疼痛モデルで、C線維性の入力が、CeCシナプス増強に促進的な役割を担っている可能性が示された。(3)CeCシナプス伝達のNMDA受容体成分が、CGRP急性投与によって増大する事実、および、この変化がMg^<2+>ブロックの解除によるものではない事実を示した。(4)糖尿病性神経障害性疼痛モデルにおいてシナプス前性機構によるEPSCの増加が認めらた。痛みの種類、モダリティによって、異なる機構によるシナプス伝達増強が生じる事実が確認された。
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