研究概要 |
臨床進行期III,IV期上皮卵巣がん組織(漿液性腺がんに統一)の遺伝子発現プロファイル解析により、予後予測インデックスが作成可能であった平成22年度はこの結果の再現性を確認する目的でさらに症例を増やし、285例で予後解析を実施した。集積した症例は漿液性腺がんに統一、組織摘出前に抗がん化学療法を実施していない症例、および手術後の化学療法を同一のレジメンを受けている症例に限定した。遺伝子発現解析を実施後、全ての遺伝子について単変量解析を実施、遺伝子発現量が無病生存率と有意に(p<0.01)相関する遺伝子群を分離Prognosis Index (PI)を作成した。このPIの有用性を285例を用いて多変量解析により検証したところ、Hazard Ratio及びp<0.0001で有意に予後と相関する事が示された。次いで同一の臨床情報を有する外部データThe Cancer Genome Atlas (TCGA)の卵巣癌症例500例を用いた検証実験においてもtest setと同様の結果が得られ、有用性が検証された。index内の遺伝子群のIPAパスウエー解析では、Src, MYC, EGFR, VEGFAのパスウエーが抽出されため、発現量と予後について解析した結果、層別化された予後不良症例の中でSrc, EGFR両遺伝子の高発現例が、低発現症例に比較して有意に早期再発を起こしていた。以上、予後不良群のなかで発現レベルの高いマーカーに対して分子標的薬の投与を行う可能性を示唆した。進行期卵巣がんの予後不良群に対して、分子生物学的な理解を通して、適切な分子標的薬を選択するアプローチが有効であると思われた。更に孤発性卵巣がん(漿液性腺がん)の構造多型(CNV)解析の結果、43例中9例でSrc遺伝子の増幅が観察され、構造多型と病態発現が相関している興味ある結果が得られた。
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