わが国において、上皮性卵巣癌(卵巣癌)は近年著しい増加を示している。進行した卵巣癌の治療においては、抗がん化学療法が主体となるが、耐性癌細胞の出現は免れない状況であり依然として長期予後は不良である。卵巣癌においても自己複製能と分化能を有する癌幹細胞が存在すると考えられている。卵巣癌の癌幹細胞は正常幹細胞と同様に細胞周期の静止期にあり、薬剤耐性能も高いことから抗がん剤抵抗性を有していると考えられ、抗がん化学療法は癌幹細胞から複製されていく細胞に対してのみ作用し、癌幹細胞が残存した場合には再発を引き起こすことになる。今後、現在の抗がん化学療法に勝る治療法の開発のためには、この癌幹細胞に選択的に作用する薬剤が必要である。そのためには、癌幹細胞による卵巣癌モデルマウスを作成することで、癌幹細胞から癌腫形成に至る機序を解明していくとともにこれに関わるシグナルの抑制物質を見出すことによりこれまでにない新たな治療法の開発へと繋がる可能性が考慮される。 われわれは、これまでhTERTとRB癌抑制遺伝子の発現抑制により、ヒト卵巣表層上皮の不死化細胞株を作成し、実験を行ってきた。しかし、不死化した細胞においてはフローサイトメトリーの解析で、幹細胞を示す分画に入る細胞が存在しないことが判明し、不死化していない細胞を用いることとした。そのためには、ヒト細胞では実験が困難であると判断し、マウス卵巣より直接幹細胞を採取することで実験を行うこととした。幹細胞マーカーEpCAM陽性細胞を抽出し、この細胞に直接、変異型p53、c-myc、k-rasの3つの遺伝子を導入し、不死化することなくマウスに移植することで、癌腫の形成が確認された。
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