研究概要 |
我が国における最大の失明原因は緑内障であるが、全体の約7割を「正常眼圧緑内障」が占める。我々はグルタミン酸輸送体の1つであるGLAST遺伝子の欠損マウスを作製し、正常眼圧緑内障モデルマウスとして利用可能であることを報告している(Journal of Clinical Investigation,2007)。本年度は神経細胞にアポトーシスを誘導するASK1遺伝子の欠損マウスをGLAST欠損マウスと交配したところ、緑内障の進行が遅延することがわかった(Cell Death and Differentiation,2010)。またASK1欠損マウスを用いて実験的自己免疫性脳脊髄炎を発症させたところ、正常マウスよりも視神経炎が軽減して、視機能が良好に保たれていた。さらに新たに合成したASK1阻害剤が視神経炎の症状緩和に有効であることを突きとめた(EMBO Molecular Medicine,2010)。以上からASK1の抑制が緑内障をはじめとする網膜・視神経疾患における神経細胞保護に有用な可能性が示された。一方、緑内障においてはどのように視神経を再生すべきかが問題になっている。我々は新しいタイプのグアニンヌクレオチド交換因子であるDock3と呼ばれる分子が、視神経の軸索伸長を促進することを見出した。Dock3は神経栄養因子BDNFの下流でFynおよびWAVE蛋白と複合体を形成し、細胞膜上でRac1を活性化するだけでなく、細胞膜近傍にWAVEを供給することで、効率良く軸索伸長を促進することがわかった。さらにDock3過剰発現マウスでは、正常マウスと比較して、視神経損傷後の軸索再生が著明に亢進していた(Proc Natl Acad Sci USA,2010)。今後はDock3の遺伝子治療等によって緑内障に対する再生療法が可能かどうか、さらに検討を進める予定である。
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