研究概要 |
創傷,肥満など様々な状況において脂肪組織は虚血および低酸素状態に陥る。肥満とは無関係に、脂肪組織に対する低酸素の影響ならびにその後の適応反応を細胞および遺伝子レベルで解明することを目的とした。脂肪組織の低酸素モデルマウスを確立し,遺伝子発現,各種細胞の挙動を経時的に観察した。続いて,低酸素下における脂肪組織構成各細胞の挙動を検討した。低酸素下では多くの液性因子(VEGF、HGF、TNFα、IL-6、MMP9など)の発現が亢進した。さらに直後から脂肪細胞をはじめとしてアポトーシスや壊死が認められ,3日目からはマクロファージの浸潤や集積も認められた。一方で,細胞増殖(脂肪由来幹細胞をメインに,血液由来細胞や血管内皮細胞)、血管新生,脂肪新生といった組織の再生所見も7日目をピークとして認められた。In vitroでは,分化脂肪細胞や一部の血管内皮細胞が低酸素により早期にアポトーシスや壊死に陥るのに対して,脂肪由来幹細胞は長期的に生存し,高い増殖能と脂肪分化能を維持していた。また,低酸素下での脂肪組織器官培養上清により,脂肪由来幹細胞の遊走能,増殖能が著明に促進された。成熟脂肪細胞や内皮細胞は低酸素により死滅するが,脂肪由来幹細胞は低酸素に強く,低酸素刺激、細胞壊死に伴って組織から分泌される液性因子によって活性化され、脂肪再生や血管再生に関与し、組織修復に貢献していると考えられた。
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