本研究は、創傷治癒のメカニズムと細胞投与によらない再生誘導治療についていくつかの重要な示唆を与えている。まず、初期(凝固期)に含まれる因子だけでその後の一連の治癒過程を惹起しうることが明らかにされた。創傷治癒の中期、後期に見られる二次的な因子(VEGFやHGFなど)の多くは初期の因子の作用によって連鎖的に分泌され、また初期には一次因子により組織幹細胞が、その後に二次因子により血管内皮細胞が刺激されることが示唆された。次に、脂肪組織を傷害して出てくる因子の内容と組成は、組織幹細胞を脂肪新生や血管新生に誘導する傾向があることが示唆された。すなわち、組織の傷害因子群は組織特有のものであり、その組織を自ら修復するのに適した内容になっており、臓器特異的に分析することにより、臓器特異的な再生誘導法の開発につながることが示唆された。3つ目に、糖尿病組織や阻血組織であっても、組織の幹細胞が十分に機能する状態であれば、蛋白の投与だけでも、その幹細胞をうまく刺激することにより血管新生の誘導が可能であり、低酸素状態を改善することができることが示された。蛋白を用いる再生誘導治療は、細胞治療に比べて安全性、コスト、侵襲など多くの利点を有し、製剤化、標準化も容易である。4つ目に、この創傷治癒初期因子は、血小板に由来する因子を多く含んでいるため、PRPなど患者本人(他人でも可能)の末梢血を材料の一部として利用することにより、安価に準備することが可能であることが予想される。こうした知見は、今後の組織再生や血管新生のための再生誘導治療の開発に多くの示唆を与えている。すなわち、組織の傷害因子群には組織固有の重要な情報が含まれており、その情報を解読することにより、その組織の幹細胞を操縦するための言語(微小環境)の一端を知ることができる。その言語情報を蓄積し、駆使することにより、次世代の再生誘導治療につながる。
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