【目的】腕神経叢の引抜き全型損傷に対する対側第7頸髄神経根移行術は、患側の感覚情報が健側に繋ぎかえられるにもかかわらず、術後の機能回復は良好である。これには何らかの中枢での可塑性の関与が考えられる。そこで経頭蓋フラビン蛋白蛍光イメージングにて神経交差移植をおこなったマウスの体性感覚野の可塑的変化を検討した 【実施方法】8週齢マウスの両側正中尺骨神経幹を切離、同種マウスより採取した坐骨神経を、左遠位断端と右近位断端の間に移植し、神経交差モデルを作成した。8週間後に左前肢手掌に振動刺激を与え、体性感覚野の応答を経頭蓋フラビン蛋白蛍光イメージングにて観察した(n=11)。更に左右の体性感覚野へ青色レーザーを照射し、神経活動をそれぞれ抑制した後に振動刺激に対する応答の変化を観察した(n=9)。また経験依存的可塑性に重要な役割を果たしているNMDA受容体が皮質特異的に半減したマウスに対し、同様の実験を行った(n=10)。 【結果】神経交差モデルマウスでは、左前肢手掌振動刺激にて両側の体性感覚野に反応を認めた。この両側性の反応は、移植神経を切断することで消失した。刺激と同側の左体性感覚野のレーザー抑制後では、両側の反応の減弱を認めた。しかし、刺激と対側の右体性感覚野の抑制後では、抑制をかけた側の反応のみが減弱し、刺激と同側の左体性感覚野の反応は減弱を認めなかった。皮質特異的なNMDA受容体半減マウスでは、刺激と対側の反応が有意に減弱した(P<0.003) 【考察】交差移植後の左前肢振動刺激は、移植神経を介し、対側腕神経叢より、後索-内側毛帯経路を上行、刺激と同側の一次体性感覚野に到達し、脳梁を介して刺激と対側の一次体性感覚野へ伝わると推察される。体性感覚野の両側性の応答は、両側半球を繋ぐ脳梁間のシナプス連絡が経験依存的に増強されたことによると考えられる
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