研究概要 |
敗血症病態は,血管内皮細胞炎症を契機として,血管内皮細胞を基底膜より遊離させ,さらに血管への血小板沈着を誘導することが観察できる。このような結果として,敗血症病態では血小板数減少を特徴とする播種性血管内凝固症候群が進行しやすい可能性がある。 本研究は,播種性血管内凝固症候群における血管内皮細胞障害を,遊離型血管内皮細胞(circulating endothelial cell : CEC)の数を同定することで評価したものである。雄性Balb-Cマウス(8-12週,体重25-35g)において,盲腸結紮穿孔により敗血症病態を惹起した。抗CD146抗体ビーズを用いて血液より回収されたCECは,抗フォンビルブランド因子が陽性であり,正常では5個/mLだったが,敗血症病態の作成により60個/mLレベル以上に高められた。 以上に対して,敗血症作成の3時間後に尾静脈よりTGF-β activated kinase-1(TAK-1)siRNAおよびActivator protein-1 (AP-1) decoy oligonucleatideを投与すると,投与量50μg以上で有意にTAKi1蛋白量やAP-1活性が抑制され,さらに,CEC発現が減少した。敗血症病態において,血管内皮細胞で増加する分子としてTAK-1を同定したが,siRNAによるTAK-1減少により,AP-1活性が減じていた。また,敗血症病態におけるCEC発現増加と血小板数減少は相関しており,CEC発現増加は,敗血症による播種性血管内凝固症候群を予測する因子と評価された。一方,敗血症血管で増加するnuclear factor-κB(NF-κB)活性をNF-κB decoy oligonucleatideで抑制したが,CECの発現量に有意差を認めなかった。 以上より,敗血症病態におけるCECの発現には転写因子AP-1が関与しており,NF-κB活性によらないと評価された。敗血症病態において,血管内皮細胞で増加する分子としてTAK-1を同定したが,TAK-1活性増強に伴うAP-1活性増強がCEC増加や播種性血管内凝固症候群の発症に関与していると結論された。
|