研究概要 |
広範かつ多種にわたる病原性細菌のゲノム解析が世界的規模で推進され,現在ではこれらの遺伝子情報の入手は容易となってきでいる.口腔の2大疾患の1つである齲蝕は,感染症的色彩の強い疾患であり,その原因がStreptococcus mutansを中心とするレンサ球菌によることは多くの報告から明らかであるが,その機能発現メカニズムについては未だ不明な点が多い.レンサ球菌種の分類学上の分類基準種であり,かつ咽頭部粘膜が初発感染部位と考えられるA群レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)は,多彩な病態を示し,近年,劇症型A群レンサ球菌感染症(TSLS)の起因菌として注目を集めている.S.pyogenesは,申請者らが決定した劇症型のSSI-1株を含め13株のゲノムが決定されている.比較ゲノム解析の結果,S.pyogenesゲノムの約1/5もがファージ由来であり,そのため,S.pyogenesはファージによって異なる病原因子を獲得し,これが本菌による多彩な病原性を発揮する原因の一つだと考えられている.細菌のファージへの獲得免疫として機能することが実験的に証明されたclustered regularly interspaced short palindromic repeats (CRISPR)が同種の配列を持つファージへの抵抗性を持つようになることが報告されているが,その詳細な機構は明らかとされていない.そこで本研究では、CRISPRはすでにゲノムに入り込んだファージ由来の遺伝子によってその遺伝子発現が特異的に抑制されていることを明らかとし、またA群レンサ球菌ではゲノムの再構成そのものにも関わっていることを明らかとした.すなわちワァージは細菌の免疫機構を打ち破る,いわばanti-CRISPR systemをすでに有していることが推定された.
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