研究概要 |
研究期間を通して行ってきた,オートインデューサーの1種であるアシルホモセリンラクトン(AHL)類似化合物のヒトの菌肉縁上バイオフィルムからの検出を継続して試みた。昨年は,LC/MS/MS法による微量解析を用いて微小ないくつかのピークを検出するに留まった。得られたピークが,類似化合物であるか,アーティファクトであるかを検証するため,採集するバイオフィルム量を5倍程度増量して再評価した。その結果,明確なピークは認められず,ターゲットとしたAHLあるいはその類似化合物は歯肉縁上バイオフィルムには存在していないことが明らかとなり,歯肉縁上バイオフィルムではオートインデューサー-2型あるいはペプチド型など他のオートインデューサーが機能しているとことが推察された。この結果は,他のオートインデューサーを同定する必要があるものの,クオラムセンシング阻害剤をターゲットとしたデンタルバイオフィルム抑制剤の開発を一歩推進させるものである。 他方で,実験動物を用いて根尖孔外バイオフィルム形成モデルを確立した。すなわち,下顎第1大臼歯を露髄し4週間後に根尖孔を破壊してガッタパーチャポイントを根尖孔外まで挿入し4週間放置することで,根尖孔外にバイオフィルムが形成された。現在,このモデルを用いてPorphyromonas gingivalisバイオフィルムに対して前年度の実験で抑制効果を示した,アジスロマイシンやAHL類似化合物などを用いて,その抗バイオフィルム効果を定量・定性解析中である。確立したモデルは難治性根尖性歯周炎の新規の治療法や治療薬の開発には有用な実験系であり,本モデルを利用した実験が緒となり将来的には化学療法によって難治性根尖性歯周炎が制御されるものと考えられる。
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