研究概要 |
本研究は、ランダム化比較試験の手法を用いて顎関節症および睡眠時ブラキシズムに対するスプリント治療の効果判定を行うことを主要目的とした。平成21年度中に研究実施準備(被験者説明用資料、データ収集および解析法の整備、倫理委員会の承認)が完了し、平成22年3月から患者を対象とした測定を開始した。顎関節症患者87名を対象に、臨床診察をもとにスクリーニングを行い、その結果16名の被験者が選択基準に適合したため、スプリント装着群と非装着群とに無作為割付した。その後、顎機能障害の検査[咀嚼筋の疹痛(VAS)、筋圧痛スコア等]、OHIP (Oral Health Impact Profile)、および社会心理学的因子の測定(GHQ60健康調査票、POMS短縮版)を行い、スプリント治療開始前の睡眠時ブラキシズムの記録を行った。次に、スプリント装着群にはスプリントを装着し(スプリント非装着群は経過観察)、スプリント治療開始直後、1,4,6週後に同様の測定を行った。睡眠時ブラキシズムのデータについては、従来から用いている解析(睡眠時ブラキシズムの発生頻度,活動量など)を行った。これまでに、スプリント装着群8名、スプリント非装着群8名のデータ収集が完了した。これらを解析した結果、VASによる疼痛の主観的評価では群間に有意差が認められなかったが、筋圧痛スコアおよびOHIP-49スコアにおいてはスプリント装着群の方が有意に改善していた。また、睡眠時ブラキシズムはスプリント装着直後において有意に減少したが、その効果は短期的であり、1週後以降には差はみられなかった。また、スプリント装着後の睡眠時ブラキシズムの変化には個人差が大きく、中には増加する患者もみられた。社会心理学的因子に関しては、神経症の傾向および緊張・不安の傾向が強いほどスプリント治療を行っても最小VAS(安静時の自発痛)が改善しにくいことが示された。これらの研究結果は英文学術雑誌(J Oral Rehabil)に投稿中である。
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