研究概要 |
チタンに抗菌性を賦与することは,フィクスチャーとアバットメントを1度のオペで埋入する一回法を達成する上で重要であり、口腔との界面においては,軟組織や硬組織の治癒を同時に促進することが求められる.1Mの塩化ナトリウム電解液中で,チタンを陽極,ステンレスプレートを陰極とし,1アンペア・60秒で放電陽極酸化処理されたチタン(Ti-C1)では、表面の三塩化チタンが徐放する次亜塩素酸による抗菌効果と陽極酸化膜の細胞接着性タンパク吸着能から,優れた細胞増殖能を同時に期待できるということが明らかとなった.そこで,本研究ではTi-C1の抗菌作用ならびに生体適合性を検証しその機序を検討した.プレートの半面をTi-C1とした試料にS. mutansを播種し,LIVE/DEAD染色にて抗菌効果の範囲を特定した結果、未処理面では生存しており,抗菌作用は処理を行った表面に限定的であった.また,グラム陰性菌菌体外多糖,細菌細胞膜主成分およびグラム陽性菌細胞壁をTi-C1に作用させ,全反射法を併用した赤外分光分析(ATR-FTIR)をおこなった。その結果,ピークの経時的な減衰と代謝産物を測定したことから,Ti-C1の抗菌効果は三塩化チタンが徐放する次亜塩素酸に依存していることが裏付けられた.さらに,Ti-C1ならびにコントロール試料上にMC3T3-E1細胞を血清培地および無血清培地で培養し,観察面をランダムに選択し,生細胞と死細胞の比率をカウントした.この結果,Ti-C1およびコントロールでは細胞生存率が高く,有意差は見られなかった.無血清培地ではTi-C1で細胞生存率はおよそ20%であり,コントロールの70%と比較して著しく低下した.本研究の結果,本処理は微生物と細胞との接着機構の違いにより,抗菌性と生体適合性を両立し,チタン製インプラントの表面処理として有効であることが示唆された.
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