腫瘍融解性ウイルス療法は弱毒化ウイルスを投与して、ウイルスの細胞変性効果で腫瘍を破壊する癌治療法で、最近ではその腫瘍免疫誘導効果も注目されている。本研究では現在臨床段階にある単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)のHF10と神経毒性遺伝子gamma34.5を欠失したR849を親株として、RH2を作製した。RH2はHF10と同様に細胞融合能を持つが神経毒性遺伝子は欠失しており、より安全性の高いウイルスといえる。そこで、次世代高速シーケンシング技術としてRoche社のGenome Sequencer FLX(GS-FLX)を用いてRH2の塩基配列を解析した。HSV-1遺伝子は株特有なULとUS領域とこれらの両端に存在する繰り返し配列からなっている。GS-FLXで得られた塩基配列ど公表されているstrain FとHF10の塩基配列との間でBLAST検索を行ったところ、RH2の塩基配列はstrain Fの83%をカバーし、一致率は99.1%であった。HF10の場合94%をカバーし、一致率は99.6%であった。open reading frameをアミノ酸に翻訳してRH2と100%一致するものを探索したところ、UL領域ではRH2とstrain FあるいはHF10との一致率はそれぞれ36.2%と45.3%、US領域では、RH2とstrain FあるいはHF10との一致率はそれぞれ7.7%と69.2%で、US領域はHFに由来すると考えられた。細胞融合に関与する遺伝子UL27はHF10と同様817番のLeuがProに変異していた。親株と比較してRH2でアミノ酸に変化を認める遺伝子が11個あり、UL27以外にUS4、US6といった糖蛋白質が含まれていた。このような遺伝子変異がRH2の強い細胞融合性に関与すると考えられる。
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