腫瘍融解性ウイルス療法は弱毒化したウイルスを腫瘍に感染させ、その細胞変性効果によって腫瘍を破壊する治療である。本療法のベクターとして、最も研究が進んでいるのが単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)である。過去2年間で、新規の腫瘍融解性HSV-1としてRH2を作製した。これは脳炎の原因となる神経遺伝子gamma34.5を欠失しそこにLacZ遺伝子が挿入されたR849と自然変異体で細胞癒合能を有するHFとの組換え体である。次世代シーケンサーGS-FLXを用いて遺伝子のシーケンシングを行い、公表されているHSV-1のF株とHF10株(HFのクローン)の塩基配列と比較したところ、HF10と同様に細胞融合に関与するウイルス糖蛋白質gBでアミノ酸変異を生じていた。しかし、HF10のようなUL56遺伝子の欠失はみられなかった。得られた塩基配列を日本遺伝子データバンク(DNA Bank of Japan ; DDB)にアクセス名RH2 ACCESSION AB618031で登録した。遺伝子構造全体が決定されたHSV-1としては、RH2は第5番目のウイルスといえる。 RH2は培養ヒト口腔扁平上皮細胞で細胞を融合し細胞傷害を示すことから、ヌードマウス腫瘍における抗腫瘍効果について検討した。腫瘍内にRH2を投与して腫瘍内の感染ウイルス量を経時的に測定したところ、7日まで次第に減少するが14日目ではやや増加がみられ、腫瘍内でもRH2は増殖能を発揮すると考えられた。抗腫瘍効果はHFに匹敵するものであった。RH2投与後の腫瘍中央部では壊死が進行し、その周囲で活性化カスパーゼ3を発現するアポトーシス細胞がみられた。しかし、RH2感染によって誘導される巨細胞では活性化カスパーゼ3は検出されなかった。したがって、RH2感染では、非アポトーシス性細胞死が誘導されると考えられた。
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