計画第二年度の本年は、代表者の新谷、分担者のダニエルス、協力者の山田がそれぞれの重点分野に集中した現地調査を行った。ダニエルスは中国雲南省徳宏地区において、サルウィン系のタイ系言語であるタイ・マオ語で書かれた年代記の翻訳に努め、現地のタイ系民族から見たモン・クメール系民族およびチベット・ビルマ系民族に対する概念の分析を進めた。また、こうしたタイ・マオ語で書かれた文献の記述内容を確認するとともに、メコン河流域のタイ系民族との違いを明らかにすべく入念な文化調査も実施した。こうした調査により、タイ社会における非タイ系民族、特にモン・クメール系民族の重要性が明らかになるとともに、メコン流域のタイ系民族との距離感も明らかになってきた。山田は主にパラウク・ワ族の民話を収集し、その翻訳を通じて、ダニエルスとは反対に、モン・クメール系民族から見たタイ系民族に対する概念の分析に努めた。両名の調査は、これまでほとんど重視されてこなかったタイ系民族と非タイ系民族との密接な関係を明らかにできた点で大きな収穫であった。新谷は10月に泰緬国境のタイ側でミャンマーからの難民を相手にカレン系の言語2種、モン・クメール系言語1種の調査を行った。更に12月から1月にかけてミャンマー国内でチン系言語9種の調査を行った。これらの言語はいずれも、これまでデータが少ないか全くなかった言語であり、こうしたデータ収集により、イラワジ系統のチン族、カレン族との間の関係、更には、サルウィン流域のモン・クメール系民族との接触経緯などを明らかにできる展望が開けてきた。
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