研究課題/領域番号 |
21401021
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研究機関 | 東京外国語大学 |
研究代表者 |
新谷 忠彦 東京外国語大学, 名誉教授 (90114800)
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研究分担者 |
ダニエルス クリスチャン 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 教授 (30234553)
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キーワード | タイ文化圏 / イラワジ河 / サルウィン河 / メコン河 / パラウン語 / ワ語 / プラン語 / 徳宏 |
研究概要 |
昨年度までの調査で、同じタイ系民族であり、かつ、言語がきわめて類似していながら、サルウィン流域とメコン流域の間では大きな文化的な溝があることが分かった。本年度はこうした溝の解明を目指して、従来のイラワジ・サルウィン流域に加え、メコン流域の言語および文化の調査も実施した。その結果、イラワジ流域の言語としては、新たにチン諸語2言語、ブラカロン諸語2言語、ラワン系言語3言語の合計7言語の調査ができた。また、サルウィン流域の言語としてはモン・クメール系の3言語の調査を行った。更にメコン流域の言語として、モン・クメール系のプラン語の調査を行い、サルウィンとメコンの中間に位置するワ語の調査も行った。こうした言語調査と並行して、雲南省の徳宏地区で現存するタイ系言語で書かれた文献の解読を進め、文化調査を行った。ナム・カムでは、パラウンが自身で考案したと思われる文字で歴史史料を執筆している情報を入手し、パラウンが自己の歴史を書いていた可能性があることが判明した。以上の調査によりいくつかの新しい知見が得られた。まず、同じ北方モン・クメール系で相互に近い言語であるパラウン、ワ、プランの3言語は、パラウンがサルウィン流域のタイ語の影響を強く受けているのに対し、プランはメコン流域のタイ語の強い影響下でその特徴を出してきた言語である。一方、ワ語はその中間にあって、パラウンやプランに比べてタイ語の影響が少ない言語である。このような3言語(民族)の分化は彼らの地理的分布によっても裏付けられる。すなわち、西から東に、また、北から南に、おおむねパラウン・ワ・プランの順に分布している。同じように、サルウィン河のモン・クメール系言語であるカノ語、リアン語にブラカロン語の影響がみられることから、ブラカロン系民族がイラワジ河の東にかなり広く広がっていたことが想定される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
想定を超える数の新しい言語データが得られ、タイ系言語で書かれた文献の解読作業もほぼ順調に進展している。また、言語・文化接触による民族の分化についても新しい知見が得られている。タイ文化圏の中で大河の重要性がはっきりし、そうした大河文化圏を裏付ける言語・文化調査も進展している。
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今後の研究の推進方策 |
タイ文化圏の中での大河流域文化圏の存在を、さらなる言語・文化調査によって一層明確にするとともに、このような文化圏がタイ文化圏および近隣地域を含めた地域の歴史にどのような影響を与えたかを考えることによって、新たな歴史研究に道を開くことを目指している。また、タイ文化圏の言語データの収集ですでに世界で圧倒的な地位を占めているが、さらなる現地調査によってこの地位を一層強固なものにし、我が国をこの地域の研究における世界的な中心にすることを目指している。
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