研究概要 |
宮武、芹澤は半成23年9月に米国ワシントンDCの議会図書館アジア部門および文書部門において,1934年に妹により寄贈されたスターのコレクションと報告書の調査をおこなった。議会図書館では,郷土玩具関係の資料と共に,大本教をはじめとする大正昭和期の新宗教についての資料が多く含まれており、スターの宗教への関心と明治大正の宗教史を理解する上での貴重な資料が発見された。また文書部門では、スターが朝鮮統治に関して書いた報告書1通が発見された。このような政治的資料はシカゴ大,ワシントン大などのコレクションでは見られないものであり、ベネディクト以前の米国人類学者と日米政治の関係を探る上でも重要で,今後の米国公文書館での調査が必要と考えられる。その後ボストンで出利葉と合流し,ボストン児童博物館とボストン公立図書館においてスターと交流のあったボストン在住のジェシー・シャーウッドと日本玩具のコレクションに関する調査すると共に,1928年にシャーウッドの協力により京都で設立された日本最初の児童博物館「仏教児童博物館」に関する資料を調査した。ボストンではスターの玩具コレクションを発見できなかったが、その後の「青い目の人形」交流につながる多くの一次資料を発見した。また宮武は,オレゴン大学図書館と付属美術館でスターの納札とアイヌ絵の調査をおこない39冊の貼込帳の全容を記録し帰国後にデータベース化をおこなった。また宮武と芹澤は,1933年にスターが東京で急死する直前に訪問していた,旧満州の大連において調査をおこない、スターと満州在住の我楽他宗などの日本人収集家との交流についての資料を大連図書館などにおいて調査した。さらに権は,平成23年4月および平成24年3月に韓国の国会図書館、公文書館などでスターの朝鮮訪問時の新聞雑誌資料および、スターが関心を持って収集した朝鮮玩具に関する調査をおこなった。以上の調査実績に加えて、スターに関する約150の日本の新聞記事をデータベース化して冊子としてまとめ,今後の調査資料とした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度は米国議会図書館における調査を予定通りおこない、新宗教関係を含むスターの関係資料の調査をおこなった。しかし朝鮮、満州問題を中心とするスターと当時の国際関係に関しては,米国公文書館での調査が出来なかったため、今後の課題となっている。またスターの収集品に関しては,ボストン児童博物館において玩具関係の調査をおこなうと共に,オレゴン大学図書館において昨年度は部分的にしか調査できなかった納札関係の調査をおこない、その全容をデータベース化した。このように平成23年度までの調査により、国内外の納札、蔵書などについてはほぼその全容を調査することが出来た。また韓国における資料調査により,国会図書館,公文書館などに残されたスター関係の資料はほぼ調査することが出来た。さらに近代人類学や民俗学とは距離を置いたスターの人類学研究に関しては,存在論的視点に基づく現代の人類学研究にも通じるものであるとの理論的解釈が可能であり,現在論文を準備中である。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は最終年度となるため、本年度までに明らかに出来なかった玩具、絵馬などの収集品の所在と内容を調査すると共に、納札会や趣味人とのネットワークについてさらに調査し、同時期に発展した日本民俗学、人類学との関係においても分析をおこなう。また公文書として残されていると思われるスターの報告書については,米国公文書館において調査をおこない、緊迫した国際関係の中での人類学者スターの東アジア調査について明らかにする。さらに調査結果についての研究報告会を開催すると共に、調査資料をデータベース化すると共に,研究結果に関してはそれらをまとめて出版することを計画している。
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