本研究の目的は、2008.5.12に発生した中国・四川大地震後のチャン族文化の復興と創出のメカニズムを、国家、対口支援担当の外部政府、現地政府という為政者側と住民であるチャン族側との関係のなかから考察することである。これまでの2年間で明らかになったのは、政府側が「より速く、より美しい」と喧伝する「中国式復興モデル」では、対口支援を担当した外部の地方政府の意向と阿〓州政府の「外貌改造」という貧困地区改良政策の主導のもとで「現代化」されたハコモノ的復興が先行していること、集中的に援助を受けた地域と改造から取り残された奥地との復興格差がみられることである。 本年(最終)度は、四川大地震後4年目にあたり、3年間で復興項目の完成をめざした中国政府の復興事業が2011年5月にひとまず終了し、政府主導による復興の全貌がほぼ明らかになった。本年度は、被災地における住民の生活と文化復興の現状をさらに調査するために茂県を中心に4村において村落調査を実施した。幹線道路沿いの村落は、対口支援を受けて観光業を主産業とした村落に変貌しつつあるが、成功した村と困難を抱えた村が出現しており、その差が村民の参加形態に大きく関わっていることなどがわかった。また貧困脱出と生活環境改善を目的とした州政府の「外貌改造」計画は、従来のチャン族式家屋を大きく変え、チャン族型を模した統一された同じような街並みがあちこちに出現するという結果をうんでいる。州政府が外部の専門機関に設計を委託し、住民は提示された数種類の規格から自分の家屋を選ぶという方式がとられたからである。生活の改善と民族文化や地域文化の保存とのバランスをどのようにとるのか、課題である。また2012年3月には、四川において共同研究を進めてきた四川省民族研究所の3名の研究員と茂県羌族博物館館長が来日し、東北大震災後の地域文化復興の状況を視察し、北海道においてアイヌ人とアイヌ文化の現状を調査した。これらは最終報告書を作成するにあたって比較という視点から大きな意味をもつ。さらに来日時には最終報告書作成のために検討会を複数回開いた。
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