研究概要 |
A.V.Gennep, Manuel de folklore francais contemporain, IV(Paris, Picard. 1949)で記述されているフランス各地の五月の行事について、「五月の木」を立てる習俗、「豊穣祈願の道行き」と呼ばれるプロセシオン、「五月の女王」と呼ばれる行事、について整理を行ない、とくにドーフィネ地方、アルプ・ドゥ・オートプロヴァンス地方、サヴォァ地方における予備調査を実施し、来年度以降の調査地の選定を行なった。第一「五月の木」については、南プロヴァンス地方で、この行事が現在も行なわれているキュキュロン(Cucuron)において、行事の過程を知るための予備調査を行なった。これは、もともとあった五月の木を立てる習慣に、18世紀にペストが流行した時、ペストの終息を祈願した聖女サント・チュールへの信仰が習合した事例として注目される。第二「豊穣祈願の道行き」については、ドーフィネ地方のペイルール(Peyroules)で、5月1日のサン・ピエールの祭りの内容が、畑の作物のために良い天気に恵まれることを祈って、村をプロセシオンするという豊穣祈願の道行きと同じであることが確認された。他の村落においては、木曜日にミサを行なうに留まっているケース(サヴォア地方のクレヴー)、戦後消滅したことが追跡確認できたケース(アルプ・ドゥ・オートプロヴァンス地方のル・ヴィラール)などの情報収集ができた。第三「五月の女王」の行事について、サヴォア地方のクレヴーで、この行事の最後の経験者から話をきくことができた。ジェネップが情報収集した19世紀末から20世紀初頭には盛んに行なわれていた五月の行事が2009年の調査ではすでに消滅している事例が多いことが確認された。 また、イギリスでの調査は、コーンウォール地方の、パッドストーの木馬祭り、ヘルストン・ファーリー踊り、マインヘッド木馬祭りの3つの事例の予備調査を行ない、その執行次第についての確認と関連資料の収集を行なった。消滅の過程を歩んでいるフランスの五月祭と、観光化し活発に行なわれているイングランドの五月祭との対照が明らかになってきた。
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