研究課題/領域番号 |
21401045
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研究機関 | 国立民族学博物館 |
研究代表者 |
岸上 伸啓 国立民族学博物館, 先端人類科学研究部, 教授 (60214772)
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キーワード | 北アメリカ / 先住民生存捕鯨 / 先住権 / 祝宴 / ナルカタック祭 / 感謝祭 / イヌイット / イヌピアット |
研究概要 |
平成23年度は、海外調査を3回、実施した。2011年6月15日~6月28日および2011年11月19日~11月27日には、米国アラスカ州バロー村においてイヌピアックによるナルカタック祭および感謝祭の祝宴に関する聞き取り調査と参与観察を行なった。また、2011年8月20日~9月4日にはカナダケベック州モントリオール地区においてヌナヴィク・イヌイットのホッキョククジラ猟の復活に関する情報を収集した。また、これまでのデータを分析し、論文「米国アラスカ州バロー村のイヌピアットによるホッキョククジラ肉の分配と流通について」を『国立民族学博物館研究報告』(2012年、36(2):147-179)から出版した。本年度の成果は下記の通りである。(1)ナルカタック祭は、その年の春季捕鯨に成功した捕鯨キャプテンとその捕鯨組によって主催される。2011年の春季捕鯨では7頭のクジラが水揚げされ、2回の祭りが開催された。これらの祭りの祝宴において春季に捕獲したクジラの肉や脂皮の約20%~30%が提供され、共食されていることが判明した。ナルカタックは祭、文化的に価値の高い鯨肉や脂皮を村全体で分かち合う機会であり、イヌピアット民族としてのアイデンティティを確認する場であることを検証することができた。(2)秋季捕鯨に成功したキャプテンは、鯨肉、脂皮、尾びれを、キリスト教の感謝祭の祝宴に提供する。寄贈された鯨肉や脂皮などは、教会に出席した全家族に平等に配布されており、村人全体に鯨肉などを提供する場になっている。感謝祭の共食と祝宴後の伝統舞踊会は、イヌピアットや村人としてのアイデンティティの創出と維持に大きな役割を果たしていることが判明した。(3)カナダのヌナヴィク地域では、2008年と2009年に捕鯨が実施され、肉や脂皮はヌナヴィクの全イヌイットコミュニティに分配された。経費や解体技術の問題があり、毎年、捕鯨は実施されていないが、先住民権やイヌイット・アイデンティティの確立に深く関わっていることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
捕鯨やそれに関連する祝祭の調査は、クジラが捕獲されないと実施されないため、常に不確実性が伴うが、平成23年度までは幸いにも春季捕鯨や感謝祭の参与観察を実施することができた。
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今後の研究の推進方策 |
とくに大きな変更はないため、平成24年度と平成25年度にアラスカとカナダの現地調査を継続して実施した後、平成25年度には公開シンポジウムを実施する。
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