本年度は、北アメリカ北西海岸先住民、カナダ・イヌイット、グリーンランド・イヌイットの捕鯨について、アラスカ先住民イヌピアットの捕鯨と比較しながら、その実態と先住権に焦点をあてながら、現地調査を行った。 北アメリカ北西海岸先住民のヌーチャヌルスとマカーの捕鯨の現状と先住権との関係について調査した。前者は歴史的に捕鯨を行ってきたことが知られているが、ランドクレームで捕鯨を先住権として主張しておらず、捕鯨再開はきわめて困難な状況にある。後者はかつて米国を相手に締結した条約によって捕鯨の権利は守られているが、国内法との抵触や環境NGOによる訴訟によって捕鯨ができない状況にある。 捕獲枠の拡大を求めたグリーンランドのイヌイットの捕鯨は、2012年7月に開催された第64回国際捕鯨委員会総会において否決された。同自治政府は、捕鯨をイヌイットの権利として考え、クジラ資源を自らの手で管理し、捕鯨を継続する道を選んだ。国際捕鯨委員会から脱会しているカナダは、イヌイットの捕鯨を先住民の権利として認め、ヌナヴート準州で3頭とヌナヴィクで1頭の年間捕獲枠を付与している。 先住民生存捕鯨は、国家によって承認されていても実施できない状況が出現しつつある。この背景には、世界各地で繰り広げられているクジラをめぐる動物愛護運動や環境保護運動が、クジラを「神聖なる海獣」とみなし、それぞれの運動を強力に推進し、世論に大きな影響を及ぼしていることがあると考えられる。このため、1970年年代以降、世界各地において人類とクジラの関係は大きく変わりつつあり、国家や国際社会によって承認されている先住民生存捕鯨の存続にも悪影響を及ぼしつつあることが判明した。これまでの成果を基に国際シンポジウム「北太平洋沿岸諸先住民族文化の比較研究-先住権と海洋資源の利用を中心に-」を国立民族学博物館において開催した。
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