本研究は、「平和構築における現地社会のオーナーシップ育成の課題」について、総合的な検討を加えるものである。三年度目である平成23年度は、前年度までの研究の総合的整理を行い、成果の公表にあたった。シエラレオネとスリランカに関する研究の進捗をふまえ、今年度は米国ニューヨークで国際機関等の専門家層の意見を聴取し、比較のために南スーダン、ルワンダ、カンボジアの実情を調査し、研究成果の公表に役立てた。なお年度末に研究成果を紀要論文としてだけでなく、シエラレオネとスリランカのそれぞれに焦点をあてた研究報告書の形で、広島大学平和科学研究センターから公刊した。本研究を通じて、現地社会のオーナーシップは平和構築活動の戦略の中核をなす重要性な指針であることが明らかになった。平和構築活動の一分野というよりも、平和構築に関連する全ての活動を統合的に整理するための指針が、現地社会のオーナーシップである。だがその実施にあたっては現地社会の複雑性やドナー主導の国際支援体制といった構造的な問題が浮かび上がることが判明した。またシエラレオネとスリランカの事例から、「新家産制国家」の問題及び「開発独裁」の問題が、自由民主主義的価値規範を基盤とする国際社会主導の平和構築の考え方と摩擦を起こしがちになることを指摘した。平和構築における現地社会のオーナーシップ育成の課題を克服するためには、それぞれの社会の歴史・現状に即した国家建設の見通しを立てていかなければならず、シエラレオネの場合には大々的な国際機関の介入後の自由民主主義国家の樹立、スリランカの場合には中央政府の軍事的勝利による内戦終結後の国民全般の和解の推進という課題が、オーナーシップの育成にも大きく影響してくるのである。
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