本年度は、経済学的視点から、教育と経済的・社会的格差の関係などについてアンケート調査の実施を中心に研究をおこなった。 具体的には、2009年4~6月アンケート調査票の作成、9~12月に中国都市部(浙江省杭州市、貴州省貴陽市)において、両市からそれぞれ4校計8校の調査対象校(中学校)を選び、1校当たり25人の生徒およびその家庭を選び教育支出と社会階層に関するアンケート調査を行った。アンケート調査は現地の浙江大学と貴州財経学院の協力を得て実施した。 またそれと併行して、現地の学校を訪問し、教員や専門家に対するヒアリングを行った。訪問学校は以下の通りである。貴州省貴陽市:貴陽10中、中天・北京四中、貴州師範大付属中学、浙江省:浙江師範大学附属中、啓正中学、光明中学。これらの学校で近年の生徒を取り巻く家庭環境や経済状況に関するヒアリング調査を行った。 調査結果は2009年12月末に受領し2010年1月以降データを分析中であるが、最近の中国ではアンケート調査を実施しても個人情報にかかわる質問項目(職業や世帯収入など)は、特に都市部で回答が拒否される例が増えてきており、アンケート調査を実施する場合、こういった点を十分配慮して調査票を設計する必要があることを痛感した。この点は平成22年度に実施予定のアンケート調査の貴重な教訓となった。 学校関係者のヒアリングでは概して公立校ほど「公式見解=建て前」を述べるだけの傾向が強く、逆に私立学校では率直な意見交換ができた。また貴陽市にある中天・北京四中は、「中天」という不動産会社が出資し「北京四中」の名を使う権利を同校から得て貴陽市に設立した全寮制の私立学校で、中国における教育の「市場化」を考える上で興味深い事例であった。
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