本調査研究は、ドイツにおける認知症ケアの実際を、ソーシャルワーク実践から読みとることを意図している。一方、ドイツのソーシャルワーク研究の蓄積は乏しいためぐ認知症のある人も入所し、ソーシャルワーカーが施設長を務めるデュッセルドルフ市の民間老人ホームに現地調査の協力を要請した。本研究は、ドイツの「2008介護改革」直後であったために、まず老人ホームでのその対応に注目した。判明したことは、認知症ケア強化のために「世話アシスタント」を配置したこと、認知症などの相談・集いの場として「センター・プルス」が施設内におかれたことである。また、私と公という区別で言えば、上記老人ホームは「私」であり、ドイツ六公益的福祉団体の一つディアコニーである。「公」に関しては、州と市とが「デメンツ・ネット」をプロジェクトとして企画・推進していた。この「デメンツ」とは認知症を意味する。孤立・社会的排除される認知症の人を網の目で支え支援する、というネットワーク事業である。次年度からは、初年度の「私」と「公」との基本的な協働、とくにソーシャルワークの役割に注目しつつ調査を継続した。とくに興味深いテーマは「世話グループ」による「カフェ」が市内11ケ所に設置されたことである。それは、それぞれの「カフェ」の独自性が強調されている。ソーシャルワーカーを中心に養成されたボランティアと協働する「カフェ」を訪ね、その会を参与観察した。在宅の認知症の人の出かける場づくりである。最終年度は、これらの実践に日本の宅老所の実践を加え、認知症の人及び家族支援に関する「事例」研究を、日本側研究者とドイツのソーシャルワーカーとの共同研究の時間を設けた。それは認知症の診断後から最期に至る時間において、家族・隣人などインフォーマルと介護保険など社会サービスのフォーマルとの協働が極めて興味深い。また、公的ネットワークプロジェクトが医療・福祉・看護・セルフヘルプグループなどによって構成され、「包括」的支援を目ざしていることが注目された。
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