研究概要 |
本年度は,5回の現地調査、障害者社会科学研究所の所蔵する統計情報の精査、HALDE(高等差別禁止平等機関、2011年に権利擁護官に吸収)による就学訴訟に関連する勧告の分析と研究のまとめを行った。 現地調査では、全国早期療育センター協会(ANECAMSP)、全国学校支援員組合(UNEAVS)、フランス障害者中等教育研究会(CERFOP)、フランス全国知的障害者保護者協会(UNAPEI)、国立聾学院(INJS)、国立盲学院(INJA)等、早期療育から初等中等教育、支援員、コーディネータ、施設管理者、保護者を対象として聞き取りを行った。 保護者のインタビューからは「新しい法律ができたことで、支援員付きの就学が実現した反面、支援員が付かないと通常の学級への就学ができなくなってしまった」(保育学校の保護者)、「不安定な雇用への不安」や「十分な研修を受ける事ができない」(支援員団体のリーダー)、最初から「特別な教育施設への就学ありき」の就学支援の存在などが明らかになり、これらの項目をもとに、UNAPEIとの協議により、我が国の現状との共通点を明らかにした。 また、障害者社会科学研究所の所蔵する統計情報からは、障害のある子どもの就学の問題として以下のことを報告(棟方,2011)した。すなわち、インクルージョンの国策により障害のある子どもが、通常教育に統合されるが,全体で2%に満たない学業不振児の教育部門へ,同年にインクルージョンされた障害児の26%が措置されていた。この学業不振児の教育部門は,歴史を遡れば1989年以前までは軽度知的障害児を教育する部門であった。このように、障害のある子どもを一般教育に受け入れるはずのインクルージョンではあるが、その多くは、通常教育に位置づく学校ではあるけれども、もともと障害のある子どもを受け入れるための教育の場へ送り戻されている現実など、フランスにおける就学の周辺状況を把握することができたと考えている。
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