研究概要 |
島弧・大陸弧-海溝系において,その3分の1の火山列の背弧側(超背弧)に,マントルプルーム成因とは明らかに産状が異なる活発な玄武岩質マグマ活動が存在する.本研究では,同火成活動が沈み込み帯に伴う定常的なテクトニズムがトリガーとなり,410km以深のマントル遷移層・含水ウォズリアイトの脱水・溶融を引き起こすことで生じる,とする新しいマグマ成因論を作業仮説として提案している.本研究の最終ゴールは,対象地域(模式地)の盤石な地質・岩石化学データに基づき「超背弧」マグマ成因論を構築し,「超背弧」を「中央海嶺」,「ホット・スポット」および「島弧・大陸弧」に次ぐ,地球上の第4のマグマ生成場として確立することである. 平成21年度22年度の調査で,対象地地域となるパタゴニア地方,ソムンクラ・カンケル台地全地域の系統サンプリングおよび地質調査を完了することが出来き,また,概ねそれらの全岩化学組成と噴出ステージの特徴も押さえることができた.しかし,そのマグマ成因の解明にあたり,新たな問題点として,1)対象地域における地殻物質の岩石化学的特徴,2)対象地域西端,チリ・トレンチから供給される深部流体の上部マントルにおける汚染の影響,の2点が,これまでの同地域における先行研究では,十分に把握できないことが判った.そこで,1)当地域における花崗質岩のU-Pb年代および全岩化学組成を新たに求めた.2)ホウ素の流体における挙動的特徴に着目し,チリ・トレンチに伴う火山フロントの岩石化学的特徴を明らかにし,超背弧地域における,白亜系~現在における沈み込み帯起源の流体の汚染程度を見積もった.その結果,現在のスラブ深度約300km付近までの上部マントルは何らかの流体汚染が確認できたが,さらに内陸のソムンクラ・カンケル台地付近までにはその影響はないことが判った。また、それら玄武岩質マグマのほとんどは地殻の混成作用の影響を受けていないことが判った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1)本研究で主に使用する計画であった地震研究所設置の機器分析が老朽化のためトラブル続きであったこと,2)薄片製作のために送付した(中国の研究機関に外注)した大量の岩石チップが紛失し,再度,1から作成しなければならなくなった,という2点の予期せぬトラブルで,分析計画がかなり遅れてしまったことが挙げられる.その他は計画通りであった.
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今後の研究の推進方策 |
対象地域であるソムンクラ・カンケル台地を構成する玄武岩類の噴出年代および全岩化学組成の特徴は概ね掴むことができた.この点に関しては,今後,論文化に向けてまとめる段階になり,データの不足しているところは,随時補完して,各噴出ステージにおけるマグマ組成とテクトニクスの変遷を解明する予定である.ただし,最終ゴールである超背弧地域のマグマ成因を地球上の普遍的な火成活動と構築するまでには,現段階で,パタゴニア地方における大陸リソスフェアの地質構造(生成年代も含む)と組成バリエーションを把握しきれていない.そのため超背弧玄武岩成因の特徴である微量成分(例えば,低いK/La比と高いTh/Ba,Pb/Ce,Rb/Sr比など)が単なる大陸リソスフェアの組成を反映しているのみとの可能性もある.そこで,パタゴニア地方に産するマントル・ゼノリスについても全岩化学組成の特徴を把握必要があると考え,本年度,新たに同分析を遂行して行く予定である.
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