研究概要 |
本研究では,南米・パタゴニア地方,ソムンクラーカンケル台地を構成する大規模玄武岩層が,沈み込み帯に伴う定常的なテクトニズムがトリガーとなり,410km以深のマントル遷移層・含水ウォズリアイトの脱水・溶融を引き起こすことで生じる,とする超背弧マグマ成因論を基軸に地質調査,岩石試料の系統サンプリング,全岩科学組成およびK-Ar年代測定を実施して来た.その結果,以下のことが明らかになった; 1) 同台地およびその周辺に分布する火成活動は,ステージ I (36 Ma), ステージ II (27-20 Ma:噴出量が最大), ステージ III (18 - 10 Ma), ステージ IV (5.6-0.34 Ma) に区分され,36-20 Maの台地玄武岩類の火成活動では,東方(トレンチからより背弧側へ)に時代とともに移行し,18-0.36 Maのポスト台地玄武岩の火成活動は西方に移行する.また,玄武岩マグマの噴出量が最大であるステージ IIは,ナスカプレートが急激に回転運動をする時期と一致する. 2) 同地玄武岩類の化学組成の特徴は,通常のプレート内玄武岩に比べ流体と親和的なLIL元素に富む傾向がある.ステージ IおよびIII~IVの玄武岩類は火山フロントの玄武岩のような顕著なNb, Taの枯渇は見られないが,それらと同様の,例えば,高いK/La比,低いBa/Th比の特徴を示すが,ステージ IIの玄武岩類は低いK/La比,高いBa/Th比の特徴を示し,明らかにスラブ由来の流体の特徴と異なる. 現段階で,これらの特徴を説明し得るマグマ成因論は,28~20 Maに起こったナスカプレートの急激な回転運動により,沈み込んだスラブが上方へ押し上げられ,マントル遷移層直上部が隆起し,これがトリガーとなって脱水・溶融が起こり,この含水マグマがソムンクラーカンケル台地を形成した,とするシナリオである.
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