研究概要 |
ラオス人民民主共和国ルアンパバーンでは,伝統的な建造物,都会的建造物,19世紀から20世紀の植民地建造物が融合した優れた街並みが1995年にUNESCO世界遺産に指定された.しかしながら2007年12月にUNESCO世界遺産センターが実施した現地調査によれば,違法建築の急増により,早急な保護施策を実施しなければ,危機遺産に指定される可能性が示唆された.従来の手作業による建築許可・管理では十分な情報分析が不可能であり対応が後手に回っている.本研究では,持続可能な世界遺産地域開発,および後発途上国という条件を踏まえた地理情報システム(GIS)の維持可能な利用に関して研究を行っている.平成21年度の実績は次の通りである. 1.前年度までに資料調査を行ったアジアにおける世界文化遺産地域のGIS利用の現状を踏まえて,本研究との関係を再検討した.その結果,ルアンパバーンの事例ではベースマップ整備構築及び維持更新,GIS運用のための人材育成がGIS導入に必須であることを確認した. 2.現地政府のルアンパバーン遺産管理部(DPL)に遺産管理へのGISの導入に関して聞き取り調査を行い,景観の時間変化の詳細な分析,政策決定を支援する有効な情報提示,国の政策方針との整合性,などの利点がある反面,運用スキルを有する人材の育成,高価な商用ソフトウェアの導入,地理情報の構築及び維持管理などに課題があることを確認した. 3.2の結果を踏まえ,現地連携機関DPLにおけるGISプロトタイプの実装を行った.保存地域に指定された6村を対象と,他プロジェクトで導入した複数の地図データに基づいて,建築物を主な対象としたベースマップを構築した.また,DPLと協力して当該地域内の全建築物に関して詳細な調査を実施し,データベースの構築に着手した 4.2.での課題のうち,オープンソースソフトウェアの導入可能性について,現在導入されている商用ソフトウェアと,機能やユーザインタフェースが類似したオープンソースソフトウェアを特定し,必要とされている機能について比較検討を行い,ベースマップ構築の作業効率が劣る,分析機能が少ない,などの欠点はあるものの,ある程度実用的に使用できる見通しを得た.
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