本研究は台湾漢人住居に広く観察される<総舗>と呼ばれる揚床状の設備について、その歴史過程を植民地支配下における漢人在来住宅・住様式の「日本化」の観点から多角的・包括的に解明するものであり、2009年度はとくに下記のごとく台湾離島部・中国福建省南部の調査によりその分布状況の把握を試みた。 (1)2009年8月3日~8月24日の日程で台湾離島部の調査を行った。当初、膨湖群島・金門島・媽祖群島での<総舗>の分布状況の概括的調査ならびに台湾本島台南県・高雄県中山間部の竹造家屋集中地域における<総舗>の原型に関する調査を計画したが、台風および引き続く水害や天候不良のため調査地を澎湖群島に絞ることを余儀なくされた。このため澎湖群島主要4島(馬公・七美・望安・吉貝)のインテンシブな調査を実施するのが適切と判断し、<総舗>の広範な存在を確認するとともに多くの事例につき実測・聞き取りを行った。とくに台湾本島と異なる<総舗>の構造・形態類型ならびに歴史過程を示唆するデータを採集でき、意義ある成果をあげた。 (2)2009年12月23日~2010年1月7日の日程で中国福建省南部地域の予備的調査を行った。厦門・培田・泉州・〓田・福州での家屋調査と聞き取りならびに資料収集を行ったが、<総舗>に類する揚床状の設備が存在した形跡すら確認できなかった。このため、2010年度に予定していた本格的な中国調査の必要を認めず、部分的な補足調査のみで十分との判断を得た。 以上のように、金門・媽祖の両離島部については判断を留保せざるをえないが、一般家屋における<総舗>の形成がおそらく台湾本島および澎湖群島周辺地域に限られるのではないかとの見通しを得て、今後の研究遂行に対して重要な指針を獲得することができた。
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