研究課題
本研究では、これまでに我々が共同研究を通して構築した「東アジアにおける魚類の生殖研究ネットワーク」を活用し、東シナ海沿岸域において、「魚類繁殖に及ぼす地球温暖化に伴う海水温上昇(海洋温暖化)の影響」に関する国際共同調査を実施している。本年度は初年度に引き続き、ボラ・トビハゼ・マハゼを調査対象生物として、日本・韓国・中国の沿岸域において、同一の手法による国際研究を実施した。本研究では、1)生殖周期、2)成熟状態、3)生殖現象における異常の有無、に焦点を当て、実験室内での飼育実験と併せて野外における調査を実施した。また、ハタ科魚類とドジョウについても環境変動の繁殖に及ぼす影響を調べた。ボラを対象とした研究では、中国と共同で中国および我が国沿岸域において採取したボラの生殖異常の有無を調べたところ、一部の個体から異常が見つかったものの、以前に比べその数は減少していることが分かった。また、本年度は、トビハゼの卵黄タンパク質前駆物質であるビテロジェニンの遺伝子測定系の確立に成功し、日本各地で採取したトビハゼを用いてこれを測定した。その結果、我が国ではトビハゼの生殖現象に大きな変化が起きていないことが分かった。さらに、各温度設定の下でドジョウを飼育し、成熟の進行に及ぼす生殖腺発達の影響を観察した。この実験では、ドジョウの生殖腺発達は温度上昇によって誘導されるものの、一定の高温に曝されると生殖腺発達を停止することが明らかとなった。また、ハタ科魚類を用いた研究では、高温が生殖腺発達や産卵行動に阻害的影響を与える可能性が示唆された。
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