研究概要 |
1)沖合性カジカ類仔稚魚の昼夜による鉛直回遊 本研究に入って初めて,バイカル湖湖心部における仔稚魚の鉛直分布の昼夜変化を明らかにできた,沖合性カジカ類であるとComephorus属とGottocomephorus属の仔稚魚が多く出現し,昼間,中層から底層に分布していた前者は,夜間では表層近くに分布層を変えていた.一方,昼間,表層のみに分布していた後者は,分布層を水深10mまで拡散する傾向にあった.すなわち,昼間では,殆ど全く重ならない二属の仔稚魚は,夜間では水深10m前後で同所的に分布するという生態学的に興味ある現象をみせた. 2)沖合性カジカ類仔稚魚の種判別の遺伝子研究 Comephorus属とGottocomephorus属において,様々な分子マーカーを用いて成魚と仔魚の遺伝子型を比較し,仔稚魚の種判別を試みた.本年度初めて,4種の成魚からゲノムDNAを抽出することができた.これらと,両属の仔魚について系統推定を行ったところ,AFLP法と核DNAロドプシン遺伝子で,正確に種判別ができた.成魚と稚魚の系統関係から,前者仔魚は全てC.dybowskiiに,Comephorus属仔魚は全てC.inermisであることが明らかになった.このことから,両属において仔魚の分布域に差がある可能性が示唆された. 3)カジカ類の起源についての分子系統学的解析 バイカル湖において適応放散し,3科12属33種の種多様性を形成したバイカルカジカ類を対象に,その分子系統関係をより正確に解析した結果,バイカルカジカ類の起源種は,北アメリカ北西部やシベリア北東部に分布するCottus cognatusやC.bairdiiなどの種から構成されるUranidea系統の一祖先種であると考えられた.なお,この推定は世界で初めてのものである. 4)Procottus属での種レベルの遺伝的分化 同湖の浅所から約1000mの深所まで分布するProcottus属は,これまで4種から構成されるとされてきた.本研究で,3科7属12種159個体(Procottus属4種85個体を含む)についてRhodopsin(RH1)の解析を行った結果,.RH1の機能的アミノ酸座位の変異が確認され,また,未知のProcottus属系統が見出された.
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今後の研究の推進方策 |
(1)今年の調査で,ドレッジを曳くことにより,湖底深所に分布するグループを採取し,それらのDNAおよび繁殖形態を把握する. (2)上記を含めて,現在,持しているカジカ類の可能な限り全種のDNA分析を行い,バイカル湖での種分化および類縁関係の全体像を構築する. (3)9月下旬にシンポジウムを開催し,ロシアから魚類および貝類の専門家も招き,バイカル湖におけるカジカ類の起源,さらには適応放散の過程を明らかにすることを試みる.
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