研究概要 |
本研究の目的は、現生人類の起源、拡散過程と形態学的多様性の進化を明らかにするため、世界各地域の集団に関する頭蓋、歯冠形態のデータ収集と、画像データの収集、分析を実施することである。本年度は、アメリカ・ケンタッキー州のケンタッキー大学人類学博物館に保管されている、約4,000~5,000年前のパレオインディアン(Indian Knoll遺跡出土)の調査を実施した。個体数は約300個体であり、頭蓋、歯冠それぞれの計測的、非計測的形態データと画像データを収集し、データベース化した。この調査により、新大陸の完新世中期集団のかなりまとまったデータがそろい、ヒト集団の北東アジア~新世界への進出とその適応戦略の過程がより具体的に解明できるものと考えられる。予備的な分析の結果、このパレオインディアン集団は北東アジア集団と最も類似性を示し、また、日本の同時期の集団=縄文時代人ともある程度の類似性を示した。さらにこれら北東アジア集団とその派生グループは、カザフやタガールといった中央アジア集団ともやや類似しており、このことは東アジアへのヒトの進出について、単純な東南アジア起源説では説明しきれないことを示唆しているとも解釈できる。また、日本の縄文時代人についても、彼らの起源を北東アジアに求めうる可能性を示唆する結果として、大変重要であろう。今日、東/北東アジア集団の起源については、東南アジア集団の北上説が有力である。本研究結果はこのことを否定するものではないが、アフリカを出て東進を続けたヒト集団は、東アジアまで達した段階で、二系統の集団に分化していた可能性、あるいは北東アジア集団が東南アジアを起源とする一系統のみの集団ではない可能性は除外できないであろう。
|