本研究の口的は、現生人類の起源、拡散過程と形態学的多様性の進化を明らかにするため、世界各地域の集団に関する頭蓋、歯冠形態のデータ収集と、画像データの収集、分析を実施することである。本年度は、アメリカ・ニューヨーク市のアメリカ自然史博物館(American Museum of Natural History)に保管されている人骨のうちヨーロッパと北アフリカの7集団、約670個体の調査を実施した。調査項目は頭蓋、歯冠それぞれの計測的、非計測的形態データであり、同時に画像データも収集し、それぞれデータベース化した。この調査により、ユーラシア大陸西部(ヨーロッパ、北アフリカ)がほぼそろい、ヒト集団の出アフリカ後のヨーロッパ、北アフリカへの進出とその適応戦略の過程がより具体的に解明できるものと考えられる。予備的な分析の結果、現生人類の出アフリカは、従来主張されていたような、レバント地方を通ったいわゆる北ルートと考えるよりも、むしろパブ・エル・マンデブ海峡からアラビア半島南端に抜ける南ルートを通ってなされた可能性が考えられた。またヨーロッパへのヒトの進出は西アジアから西進した一部がさらにヨーロッパへと広がっていった可能性が考えられる。一方、北アフリカの人々は、一度アフリカを出た集団が、その後レバント地方に達し、さらにその一部が再びアフリカ大陸に戻っていった可能性が考えられた。次年度は最後の研究年として、世界への新人の拡散過程を分析する。
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