研究概要 |
熱帯アジアで農業に有用な天敵昆虫相を解明する目的で,無農薬有機栽培地帯が広がるラオスの農業生態系とその周辺環境において網羅的昆虫相調査を行った.また,ラオスとは対照的にすでに農薬・化学肥料を導入している隣国のベトナムとの比較調査も行った.ラオスでは,とくに山間地において農業生態系を取り巻く環境が極めて多様で,焼き畑,焼き畑後の萌芽林,二次林といった里山的環境が水田周辺に見られ,その背後には2000m前後の天然の照葉樹林の山々が連なる桃源郷が広がる. 田植えのはじまる5月前後はとくに昆虫相が豊富で,畔には,捕食性カメムシ類や,テントウムシ類,ゴミムシ類の捕食性甲虫,各種雑草に特異的な植食性甲虫類が多数見られた.8~9月の出穂期前後の調査では,昆虫相全体の多様性が減少した一方,植食性カメムシ類の増加が見られた.なかには斑点米カメムシ類も含まれるが,今回調査した限りではラオスにおいて,多種多様な種が見られ,特定種が異常発生するような問題を及ぼす発生の仕方は見られなかった.一方,ベトナムでは,ラオスと比べ同時期にウンカ・ヨコバイ類の発生が目立った. 両国間での昆虫相の多様性の違いは,農薬使用の有無とともに,農業生態系を取り巻く環境の豊かさの違いが大きく影響していると考えられるので,今後はその点も考慮し調査を継続していく. また,上記調査過程で分類学上興味深い種,分布上新記録となる種については一部論文発表した(連携研究者).
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