研究概要 |
ボルネオ島のマレーシア・サラワク州ランビル国立公園内の熱帯雨林において、樹冠上の気象観測、土壌水分、地下水位、渓流流出量の観測とともに、雨水、林内雨、土壌水、地下水、渓流水の水質を計測した。流出量測定は自然河道を用い、断面積と流速を実測して、水位-流量曲線を作成し、連続観測する水位記録から、水位-流量曲線を用いて、流量を求めた。現地滞在中に、自動採水装置を稼動させて、短い時間間隔で渓流水を採取した。対象とする流域の斜面やO次谷の末端にある湧水点における採水、支流の合流点における採水によって、渓流水質の空間分布を調べた。また、流域の水分状態による、空間分布の変動を把握した。 既往の気象観測資料の解析から、10年間の年雨量、蒸発散量、樹冠遮断量、蒸散量を求め、それぞれ2600mm,1114mm,209mm,1323mmであることを公表した。また、年降水量の標準偏差が272mmあるのに対し、蒸発散量は74mmと年々変動が小さいことを示した。 ランビル国立公園内の2流域は、SO42-が高濃度で流出しており、硫酸酸性の渓流水である。観測結果の詳細は、(1)渓流水SO42-濃度の空間分布の範囲は、時系列分布の範囲よりも大きかった。(2)支流の尾根および上流域に分布する砂質土壌の土壌水SO42-濃度は、下流域の斜面下部に分布する粘土質土壌の土壌水SO42-濃度より2オーダー大きかった。(3)土壌水のpHが4.8以下、Ca2+濃度が約20μmolcL-1以下になるとA1の溶出が始まり、さらに、SO42-濃度が約400μmolcL-1に達するとFeの溶出が始まった。 よって渓流水の酸性が強くなる主要因は、過剰なSO42-を緩衝する塩基性カチオンがないことによる。また、既往の雨量、流出量と水質の観測資料より、ランビル国立公園では、年間のSO42-の流出量(64.6kh/ha/year)は降雨による流入量(6.5kg/ha/year)の約10倍もあることを明らかにした。 物質収支推定の精度向上と年々変動を明らかにする研究は、さらに継続した観測記録の取得が必要であるが、これまでに明らかにした上記成果について国内外において学会発表と論文公表を行い、更に幾つかの学会誌投稿準備中である。
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