研究概要 |
本研究の目的は,東アジアが世界の水産物フードシステムの生産拠点として発展している実態を明らかにし、周辺地域および世界の水産業との間で今後どのように分業関係を変化させながら、その競争性を維持していこうとしているのかを分析することである。初年度は,日本の水産物貿易の動向を踏まえつつ,主に輸出側に視点をおいて,インドネシア,フィリピン,シンガポール,タイ,カンボジア,中国等について,統計分析と実態調査を実施した。水産物貿易について次ぎのような諸点を明らかにした。第1に,東アジア諸国の対日輸出量・金額とも日本の景気変動に大きく左右されているが,傾向的には減少している。水産物貿易全体としては,主な輸出相手先が日本,EU,アメリカ,東アジア域内と多極化していた。第2には,どの国も中国との貿易を拡大している。輸出ばかりではなく,輸入も増やしており,双方向的であるのが特徴である。 第3に,東アジア域内貿易がいちだんと活発化していることである。水産食品製造業の拠点国が,域内周辺国から活発に原料集荷を活発に行っていた。また,在来型の食料品(生鮮、活魚、塩干もの等)の貿易量が増大し,周辺国市場に向けた輸出が増えていた。国境障壁がしだいに小さくなり,零細な産地や市場が周辺国との結びつきを強めている実態を確認できた。第4に,養殖生産に関する域内分業化が進み,種苗生産や中間育成の過程が隣国で行われるパターンが一般化しつつある。統計的に把握するのは難しいが,養殖分業化にともなう貿易が拡大していることが予測できた。 東アジアにおける水産物貿易のダイナミズムは,消費需要の拡大はもとより,水産業をめぐる競争と分業関係の変化によって生起したものである。だが,こうした動きが資源と環境に対して大きな負荷になっている点は忘れてはならない。
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