研究課題/領域番号 |
21405029
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研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
吉永 健治 東洋大学, 国際地域学部, 教授 (40392576)
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研究分担者 |
八丁 信正 近畿大学, 農学部, 教授 (00268450)
吉田 謙太郎 長崎大学, 環境科学科, 教授 (30344097)
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キーワード | 気候変動 / 水制約 / 食料安全保障 / WTOと制度改革 / 農産物貿易 / 気候変動と適応策 |
研究概要 |
本研究の目的は気候変動等による水制約が輸出国の農業生産と貿易に与える影響およびその結果が日本の食糧安全保障にどのような影響を与えるかについて分析するものである。22年度においても現地調査を中心に作業を進め、WTO、EU本部、米国環境省、農業省などにおける関係者との気候変動と貿易問題、インド、ブラジルなど経済新興国における農業生産と生物多様性保護を含む食料安全保障に関する聞き取り調査等を実施した。この他、各訪問先においては関連する大学、研究機関も併せて訪問し、本件課題に関する研究に関してコメント受けるとともに議論を展開した。これらの調査や議論を通じて以下のような情報を得ることができた。 1.EU環境総局では、気候変動に関して緩和策が適応策より優先的に議論されてきた経緯がある。気候変動局に新たに気候変動に対する適応策部局が設立され、今後EUにおいては適応策の議論が活発化することが予想される。 2.EU農業総局ではIPCCのシナリオを利用したモデル分析を進めており、EU加盟国の農産物への影響や水制約や国別の影響度を推定している。このモデルをベニスにEU全体および国別の緩和策と適応策に関するガイドラインを策定する方向である。 3.WTOにおいては気候変動との関わりと制度的な限界について議論した。WTOは貿易に関する規律・ルールを議論する場であり、気候変動に関する貿易側面以外には限界があり、WTOの体制が気候変動に対応するような方向、たとえは「貿易と気候変動」といったような議論の場が設定されるような可能性は低いとの指摘があった。 4.米国の環境省は、最近の環境政策議論において気候変動問題はLow profileであると指摘し、気候変動に関する特別な動きが見られないとの指摘がなされた。また農務省は食料安全保障に関しては非貿易関心事項として、配慮はするものの気候変動と食料安全保障問題を直接的に結びつけた議論には疑問を呈した。またWTOにおける気候変動の取り扱いに関しても慎重な姿勢を示した。その他、USDA,IFPRIなどの研究機関においてはモデル分析を中心に影響分析を行ってはいるものの、制度面に対する研究は進んでいないよう見えた。 5.新興経済国であるインドは農業を国家プロジェクトとして捉え自国の食料は自給するという確固たる政策理念を有している。また、農作物輸出入に関しても国際市場を撹乱しない範囲での貿易政策の実施を主張した。特に、水利用に関しては水生産性の向上が最優先であると指摘した。 6.ブラジルの環境省は食料安全保障には生物多様性の保護が不可欠として、世界に先駆けてPayment for Environmental Servicesに対するシステムの構築を進めている。また、日系農家全体の経営規模や生産作物、生産量などのデータが不十分なこと、米国モンサント社等の穀物メジャーに種子や輸送システムを支配され、日本の商社の介人する余地が少ない点など我が国の食科安全保障の観点から、政治的・政策的に検討する余地が大きい。 以上のような議論の結果や情報をもとに、23年度は主として、(1)気候変動と食料安全保障の問題、(2)WTOにおける気候変動の影響に伴う貿易問題、(3)これらの問題に対して我が国が対応すべき政策課題、などについて分析を進め、最終とりまとめを実施する。
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