コムギ胚芽無細胞タンパク質合成法で作製したネズミマラリア原虫の組換えタンパク質を用いて作成した抗体による虫体における分子局在を指標としたスクリーニングの結果、新規伝搬阻止ワクチン候補抗原として複数のマラリア原虫タンパク質を見いだすことに成功した。本研究ではヒトマラリアを対象として、これらの標的分子に対する抗血清が、実際に伝搬阻止活性を有するか否かについて、流行地のヤラリア患者から採血した原虫を用いた人工吸血法(メンブレンフィーディング法)によって検討し、流行地住民の自然感染による免疫のブースト効果が期待できるマラリア伝搬阻止ワクチンの開発をめざして実施した。本年度は、生殖母体および生殖体、融合体で発現する抗原(Pvs230)に対する抗体を用いて、人工吸血法を用いて抗体の伝搬阻止活性を測定するプロトコールの有用性と当該抗体の伝搬阻止能の検定を、タイ国の共同研究者と新たにタイ国カンチャナブリ地域に設定した調査地において実施した。カンチャナブリ地域内の3か所のマラリア診療所を訪れた患者からインファームドコンセントを得た後に採血した三日熱マラリア感染血球を研究材料とした。採血直後に、抗Pvs230特異抗体またはコントロール抗体を患者血球に混合した後に、人工吸血器を用いて現地のマラリア媒介蚊(A.dirus)に吸血させた。吸血蚊を室温で約20日間飼育した後に、解剖して中腸に寄生するマラリア原虫数を計測した。その結果、Pvs230を標的とする抗体が有効な伝搬阻止活性を示すことが確認できた。また、伝搬阻止ワクチン候補抗原として新たに見いだした別の原虫分子についてもコムギ胚芽無細胞合成系を用いて組換えタンパク質の合成に成功した。現在、抗原分子をウサギに免疫して特異抗体の作成を行っている。
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