タイ王国では、寄生虫感染に関連すると言われる胆道がん(胆管癌)が世界一多発することが知られている。この胆道がんには、Opisthorchis viverrini(OV)という肝吸虫の感染が長期持続することと関連すると考えられる。ハムスターの動物モデルによりOV感染によりDNAの酸化的損傷が引き起こされることが遺伝子変化を引き起こし正常細胞をがん化させると考えられている。実際、ハムスターの胆管癌モデルにより、myristoylated alanine-rich C kinase substrate(MARCKS)の遺伝子発現が上昇していることが示されており、この発現更新が胆道がん発生に関与している可能性が示唆されている。MARCKSタンパク質は、アクチン細胞骨格の調節を介して、細胞接着、分泌、運動性に関係することが知られている。本年度は、タイ王国の症例において免疫組織学的に60例の胆道がんにおいてMARCKSタンパク質が上昇していることを明らかにした。また、MARCKSタンパク質の発現が上昇した症例では、発現が低い症例に比較して生存期間が有意に減少していた(p=0.02)。胆道がんの細胞株を用いて腫瘍プロモーターである12-O-tetradekanoyl phorbol-13-acetate(TPA)の処理によりMARCKSタンパク質は細胞膜より核周辺に局在を変化させ、MARCKSのリン酸化型が核周辺に蓄積することが分かった。また、MARCKSを強発現させると細胞接着を促進し、MARCKSの発現低下を示す細胞株では、細胞の移動度や浸潤能の低下を示した。これらの結果は、MARCKSタンパク質は、リン酸化型と非リン酸化型との変換を通して胆道がん細胞の転移に関わっている可能性があることを示した。
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