研究分担者 |
佐々木 年則 国立感染症研究所, 昆虫医科学部, 主任研究官 (10300930)
伊澤 晴彦 国立感染症研究所, 昆虫医科学部, 主任研究官 (90370965)
水谷 哲也 東京農工大学, 国際家畜感染症防疫研究教育センター, 教授 (70281681)
山川 睦 農業・食品産業技術総合研究機構, 動物衛生研究所, 領域長補佐 (40355186)
比嘉 由紀子 長崎大学, 熱帯医学研究所・病害動物学部門, 助教 (40404561)
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研究概要 |
フィリピン・ベトナム・台湾において,蚊およびヌカカが保有する未知の病原ウイルスをRDV法により網羅的に探索し,そのウイルス学的特性を明らかにする.RDV法によってできる限り多くのウイルスゲノム候補断片(リード配列)を取得,さらに次世代シーケンサーを併用してウイルス全ゲノム配列を迅速に決定し,それらのウイルス学的特性を明らかにすることが主な目的である.これにより,東南アジア地域からのこれら吸血昆虫媒介性ウイルス感染症の日本国内への侵入監視,ならびにアウトブレークに対応する危機管理体制構築に貢献することが期待される. (1)H23年度フィリピンにおいて,過去2年間の蚊分布,蚊のピレスロイド系殺虫剤に対する感受性及び都市部の蚊が保有するデングウイルス調査で得られたサンプルの解析を継続して行った.それら捕集蚊からウイルス分離を行い,細胞変性効果を示す蚊プールを複数確認し,電子顕微鏡的観察ならびにウイルス学的性状解析から,それらのほとんどが新規ウイルスであると推察された-RDV法により多くの遺伝子断片が得られ,全長解析を継続して行った.(2)ベトナムにおいて媒介蚊調査を実施し,捕集蚊から既知および新規のウイルス数株を分離した,未だ未同定の感染性因子が多数あり,それらの解析を進展させている.(3)H23年に計画した台湾での蚊,ヌカカの調査は,東日本大震災の影響もあり,期間内に実施することができなかった.(4)RDV法の技術的改良が進んだことにより,国内外で数種類の新規ウイルスを同定することができた.(5)おとり牛血液から分離されたアルボウイルスのうち、ラブドウイルス科エフェメロウイルス属に分類される日本新規のウイルスKSB-1/P/03株(2003年鹿児島分離株)の3'側約9,000塩基(全ゲノムの約2/3の領域)の塩基配列が明らかになった.また,これまで未同定であったON-6/P/05株(2005年沖縄分離株)は,レオウイルス科オルビウイルス属の日本新規のウイルスである可能性が示された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
海外3カ国(フィリピン・ベトナム・台湾)におけるアルボウイルス媒介昆虫の生息および種構成の把握に関しては,フィリピン・ベトナムでの調査は概ね終了し,総括に向けて結果を解析している.新規ウイルスのウイルス学的特性の解明に関しては,RDV法ならびに次世代シーケンサーの利用により,ベトナムおよびフィリピン捕集蚊からそれぞれ数種類の新規ウイルスの同定に成功し,H24年度中の論文投稿を見込んでいる、一方,台湾との協力研究は東日本大震災の影響により開始できず,その後の計画停電等の影響により,予定したフィリピンサンプルからのウイルス分離を中断せざるを得なかったが,媒介昆虫種や既知ウイルスの各種情報を盛り込んだ東南アジア地域のup-to-dateなアルボウイルス分布図を作成するという当初の目標は期間内に達成される見込みである.
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今後の研究の推進方策 |
フィリピンにおいて実施したこれまでの調査から得られた結果を総括し,フィリピンのデング熱媒介蚊対策で重要で思われる点について提案する.フィリピンおよびベトナム由来の未解析の検体の解析をさらに進め,ヌカカからの分離ウイルスON-6/P/05株のゲノム解析結果を整理する.両国の海外共同研究者と有機的に共有し,今後の東アジアおよび東南アジア地域における新興・再興アルボウイルス感染症のリアルタイムな監視・診断体制の整備に向けた,継続的で緊密な相互連携ネットワークの構築を行う.さらに,これまでに収集保存しているアルボウイルスバンクの一層の充実とデータベース化を図るとともに,媒介昆虫種や既知ウイルスめ各種情報を盛り込んだ東南アジア地域のup-to-dateなアルボウィルス分布図を作成し総括する予定である.
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