研究概要 |
臨床検査の国際的な標準化が大きく進展したが、基準範囲には大きな施設間差が存在する。研究代表者は、国際臨床化学連合科学部門とアジア太平洋臨床生化学連合の共同企画として、平成21年度に東、東南アジア地域8ヵ国70余りの施設において、医療従事者を中心に健常者3540(国内2084,国外1456)名を募って採血を行い、主要臨床検査95項目について、基準範囲の設定を試みた。採血は3~7月に実施、血算は現地で測定、他項目の測定は血清試料を安定条件で東京に輸送し、5~8月に項目毎に一括して行った。なお、血清試料の一部(10~40試料)は現地に残し、クロスチェックにより一括測定施設と各施設の間で測定値の相互変換を可能とした。測定は、必要な試薬を、ベックマンコールターをはじめ8社から支援を受けて行った。 その結果、各種炎症マーカ、尿素、HDLコレステロール、CA15-3、PTH、アディポネクチンなど18項目で明瞭な地域差を認めた。しかし、日本国内(北海道~沖縄まで19都道府県)では、明瞭な地域差を認める項目は存在しなかった。これに基づき、全地域または地域別の基準範囲を設定した。なお、標準化の可能な17検査項目(酵素、電解質、脂質、含窒素化合物)に対しては、臨床検査の国際標準化組織(JCTLM)の協力を得て認証標準物質等により基準範囲を校正し、ユニバーサルなのとした。一方、約半数を占める標準化未対応の検査項目に対しては、クロスチェック結果に基づき、一括測定試薬で求めた基準範囲を、各参加施設の試薬による値に変換することを試みた。その結果、ほとんどの施設において、回帰直線(線形関係式)は予想外に安定しており、CA19-9、Free T4、Free T3などの一部項目を除き、ほぼ的確に基準範囲を変換し得た。さらに、生活習慣調査票から、性、年齢、血液型、肥満度、喫煙習慣、飲酒習慣、生理周期などの変動要因と検査値の関連を、重回帰分析により詳細に分析し、検査診断上重要なエビダンスを多数明らかにすることができた。
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