スリランカ民主社会主義共和国の主たる産業は農業であり、経済発展のためには、同国の面積比で16%を占める北東部の乾燥地域の開発は不可欠である。1970年以降、灌漑設備の建設による北東部の開発がすすめられたが、1990年以降、入植した農民の若年層に慢性腎臓病が多発しており、北東部の経済開発が阻害される事態が生じている。本研究では慢性腎臓病の原因の解明を目的として現地調査を実施した。既知の原因を有しない慢性腎臓病患者より尿試料を得て、尿細管障害マーカーであるα1、β2マイクログロブリン、NAGを評価したが、ステージ2においても上昇は一部患者のみであり、尿細管障害は二次的な可能性があった。そこで病理組織を検討するため、腎生検試料19患者より得て、検討を行っている。過去にカドミウムが環境試料中で高値に見いだされると報告されていたため、河川水、飲料水を採取して原子吸光光度計にて分析したが、WHOガイドライン基準値以下であった。また患者尿試料中でも非流行地の対照者群と同程度であり、カドミウムによる腎障害の可能性はきわめて低いと判断した。一方で、流行地域ではフッ素が地質に多く、患者尿中からも高値のフッ素を検出したが、非発症家族からも検出されており、修飾要因である可能性はあるが、他の要因があると考えられた。患者が家族内で複数見られることもあり、遺伝的要因も考慮し、慢性腎疾患の遺伝疫学的検討を現在進めている。
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