研究概要 |
我々はこれまでに2006-8年のタイ国内のブタレンサ球菌179症例の後ろ向き疫学調査から、症例は北タイに多く発生し、原因菌では大半が血清型2(92.2%)、血清型14(6.7%)であった。また、肝硬変患者においてこれまでヒトで報告のなかった血清型5,24による敗血症や特発性細菌性腹膜炎症例もみつかった(Lancet,2011)。血清型2による158例の病型解析では58.9%が髄膜炎で、残りが敗血症などであった。主要なST1株とST104株いずれも敗血症、髄膜炎を起こすが、ST1株のみが頻繁に髄膜炎を起こすことが判明した(Emerg Infect Dis, 2011)。このST1株とST104株の病原性の細菌学的検討において、ST104株はST1株と同等にコレステロール依存性細胞毒素であるsuilysin遺伝子を有するものの、そのnmRNA発現が顕著に低下していることが判明した。また、ST1株のsuilysin遺伝子がマウス腹腔感染モデルにおける髄膜炎発症に関与することも確認した(未発表成績)。 また、2010年には北タイ、パヤオ県において本症の前向き疫学調査において31症例が検出され、その致命率は16.1%であった。パヤオ県の一般住民あたりの罹患率は、6.2/100,000/年と算出された。22例(71%)に生豚料理の摂食歴があり、摂食後2日で侵襲性感染症を発症していた(PLoS ONE, 2012)。これらの結果から、1200万人の居住する北タイにおいて年間700例以上の症例の発生が推定された。2010年3月に生豚料理の節食に対する注意喚起する「食の安全キャンペーン」を実施し、2011年の前向き疫学調査では13症例に減少した。これらのパヤオ県の疫学調査の結果を受けて、タイ保健省は2012年から「食の安全キャンペーン」を北タイ全体に展開させ、北タイからの本症の排除を目指している。
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