南アジアでは口腔がんが多発している。原因はこの地域で習慣となっている噛みタバコ (betel quid chewing) であることが明らかになっている。本研究の目的は、この口腔がんの発症を抑制するために、前がん病変(白板症、粘膜下繊維症)の段階でがん予防剤を用いて化学予防を行なうために予備調査を行い、大規模な介入研究の準備をすることである。まず、スリ・ランカの15カ所の病院において、前がん病変を有する患者約500名を対象とした。がん予防剤は、活性酸素のスカベンジャー(抗酸化剤)であり、発がん予防剤として知られ、すでに安全性、有効性の確立しているクルクミン (curcumin) を用いた。クルクミンを含有するチューインガム(特許取得済み)を用いて予備的介入研究を行った。経過観察中にがんを発症したり、受診しなくなった参加者は除外した。6ヶ月毎に現地を訪問し、経過観察するとともに患者教育、質問紙によるインタビューを行った。その結果、プラセボ群に比較して有意に病変の縮小をみた(2012年、米国がん予防学会にて公表)。また、病変の縮小は噛みタバコを止めることによって相乗効果が得られた。6ヶ月毎の継続的な観察の場において、口腔内を観察し、化学予防の効果が認められる者と認められない者より綿棒により非侵襲的に口腔粘膜より組織を採取し、p14、p15、p16のメチル化の有無や、チトクロームP-450の遺伝子多型を検索し、化学予防の効果との関連について検討しているが、まだサンプル数が十分得られておらず、解析には至っていない。 紅茶園の住民への口腔内診査とサンプル採取、インタビューは、気象条件などにより若干遅れたが、順調に進んでいる。前がん病変を有する者は約5%ほどに認められ、日本の状況に比較すると高くなっている。このコホートにおける介入試験が間もなく開始される。
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