本研究は、既存の問題を組み合わせることで量子計算機の影響の及びそうもない領域に難しさを持ち上げる「リフティング」と呼ばれるテクニックを主軸とし、量子計算機に対して安全な暗号系を検討するものである。本年度は、(1)リフティングにより生成された問題に基づく具体的な関数の構成と、計算量クラスにおけるその位置づけの検討、(2)リフティング技術の帰納的一般化のための検討、これら2点を中心に研究を進める計画を立てた。その成果は次のとおりである。 (1)については、リフティングの結果として定義域がクラスco-NPに属することとなった関数fの複雑さに関する新しい特徴づけ(前年度の実績)について、より深い結果に向けた検討を進めるとともに、リフティングの結果として複雑さが持ち上げられた問題を、暗号化関数として構成するのではなく自然な関数のまま認証等に応用するための枠組みとして、「少知識証明」(Little Knowledge Proof System)なる概念の構築を試みている(学会発表2番目)。これにより、量子計算機の実用化によっても破綻しないものを含むと期待される新たな認証系の一構成が示された。 (2)については、現在の主要な暗号系のセキュリティを下から支えている根元的な問題がひとつ存在するならば、それを持ち上げる手法を開発することで、それに支えられている暗号系のすべてに量子計算機耐性を持たせる筋道を開発できる可能性がある、という方針で一般化の検討を行った。その根元的問題の候補を、素因数分解問題に基づく暗号系に関しては「強RSA問題」、離散対数問題に基づく暗号系に関しては「DDH問題」にそれぞれ絞り、まずその基本的性質として、この両者は互いに帰着しないという強い状況証拠の存在証明した(学会発表1番目)。
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